旅に出よう!〜前編〜

そうだ、京都へ行こう。


どこかで聞いたようなフレーズですが、確かにそういった瞬間は存在すると思うのです。ふと日常から離れて未知の土地へと足を運んでみたい。人によってはそれを現実逃避と言ってしまいますが、全てがそうであるとは限りません。


歳を重ねるにつれ、周囲の物、出来事が既知ばかりになってしまい、日々の生活に新鮮味を感じなくなっていきます。そういった中で、新しい刺激を与え自らを活性化させるのは逃避ではありませんし、むしろ直面している現実に対して前向きであると言って差し支えないでしょう。


9月下旬の連休を利用して石川県金沢市に行ったときの話です。


日本三名園の一つとして名を馳せる兼六園に観光へと出向きました。時間には余裕を持たせて、ゆっくりと普通電車で景観を楽しみながらの旅でした。まだ紅葉の季節ではなかったのですが、それでも退屈とは感じませんでした。そういった面では、東京の地下鉄というのは実に無機質で面白味のないものだと思います。


兼六園の見学を終え、交通機関を利用せずに金沢城へと徒歩で向かう事にしました。しかし僕はお世辞にも土地勘を掴む能力に優れているとは言えず、換言すれば方向音痴に他なりません。目的地とは遠くかけ離れた見知らぬ路地へ迷い込んでしまいました。これも旅の一つの楽しみであるとポジティブにとらえ、何かバス停でも駅でも見付けたらいいなくらいの思いでぶらぶらと散策していた折でした。


何やら話し合っている男女が目に入りました。路地ですから、込み入った話でもしているのだと重い、その場を離れようとしたその時でした。


なんと男の方が刃物を取り出し、女性の方に向けているではありませんか!これはいくらなんでも見逃せません。咄嗟に駆け出した僕は一目散に男に向かっていき、男がこちらに気付くと同時に僕は飛び蹴りを叩き込みました。男は道路に倒れ、手放した刃物(ナイフでした)を取れないように蹴り飛ばすと男に馬乗りになりました。


「早く、警察を呼んで!」


「は、はい!」


突然の事態に面食らっていた女性は若く、どうやら女子高生のようでした。持っていたバッグから携帯を取り出すと、それで警察に通報していました。その間、暴れる男を押さえ込み警察が来るまでの数分間は大変な思いをしていました。


さすがに警官が到着すると男は観念した様子でおとなしくなり、そのまま連行されていきました。一緒に僕と女性も同行する事になり、事件のあらましについて事情聴取されました。


女性から詳細を聞いて初めてわかったのですが、男はいわゆるストーカーで、彼女に言い寄ってきたそうです。勿論彼女にしてみれば見知らぬ男に付き合ってくれと言われてOKするはずもなく、丁重に断ったそうなのですが、そこで男が逆ギレして彼女を殺そうとしたようです。


たまたま通りかかった僕も仲間かと疑われ、身分からその場にいた事情まで色々尋ねられました。観光目的ではまず訪れない場所にいた僕ですから、怪しむ気持ちもわからなくはないですが、良い事をしたはずなのに疑われるというのは気持ちの良いものではありません。最終的には白であると判断してくれたようで、無事開放されました。


最後に女性からお礼がしたいと言われたのですが、突然の出来事に余裕があったはずの時間もそろそろリミットが迫ってきていたので、ちょっと残念に思いながら誘いを断り東京の我が家へと帰路に着いたのでした。


そんな出来事があって約半年後。新しい春を迎え桜が咲き乱れるある朝の事でした。


先日は残業で帰りが遅く、ついつい寝坊してしまった僕は急いで駅へ行くためにマンションの一室である自宅を飛び出ました。焦っていた僕は隣のドアが開くのに気付くのが遅れ、気付いた時には既に避ける事も止まる事も出来ない状況でした。見事にドアに顔面からぶつかり、大きな衝撃が走りました。


「だ、大丈夫ですかっ?」


ドアを開いたお隣さんの女性が驚いて僕の方を見やります。僕は鼻を押さえながら痛みを堪えるのに必死で、頭の中は職場に急いで行かなければならないという思いでいっぱいでテンパりまくりです。


「大丈夫ですから!すみません、急ぐんで!」


大したコミュニケーションも取らずに再び僕は走り始めました。走り出してから気付いたのですが、鼻血が出ていました。走りながらポケットから街頭で配布している某消費者金融のポケットティッシュを取り出し、血を止めながら駅へ向かいました。その日は結局遅刻しました。


課長にこってり絞られたものの、比較的早めに家に帰れる事になり朝とは逆にゆっくりと自宅へと歩を進めました。玄関前で鍵を取り出そうとしたところ、なんと鍵がありません!


何処で落としたのだろうと今朝の行動を思い出してみますと、どうやら朝のドア激突事件の際に落とした可能性が高いようです。走りつつ鍵をポケットに仕舞うことに夢中で開くドアに気付かず突っ込んでしまい、その後すぐに走り出したので鍵を落としたまま回収し忘れたのかもしれません。


当然僕は現場付近を捜しました。日が落ちていたので廊下の電灯だけでは微妙に暗く、捜索は困難でした。しばらくその場を捜しましたが鍵は見付かりません。どうしようかと途方に暮れていると、お隣さんが帰ってきました。


「あ、こんばんは。今朝は申し訳ありませんでした」


ドア激突事件について言っているのでしょう。


「いえいえ、こちらも不注意でしたからお気になさらずに」


「そういう訳にも行きませんから。あ、もしかして鍵をお探しですか?」


「どうしてそれを?」


「ええ、あなたが落とされたので私が拾っておいたんです」


お隣さんが差し出した手の上には、僕が求めてやまなかった自宅の鍵がありました。


「それです!どうもありがとうございます!」


「私のせいですからお礼なんていりませんよ。もっと早く渡せれば良かったのに、お待たせしてしまったみたいですみません」


「こちらこそ、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」


お互いに謝り合うというちょっと変な状況に、二人とも小さな笑いを漏らしていました。


「とにかく、鍵ありがとうございます」


鍵を受け取り、自宅に入ろうとしました。


「あの、今お時間ありますか?」


お隣さんに声をかけられ、鍵を回したまま手を止めそちらに顔だけを向けます。


「え?何かご用ですか?」


「もしよろしかったら、夕飯作りに行ってもいいですか?・・・あ、もう食べちゃいました?」


「いえ、まだですけど・・・」


どういった風の吹き回しでしょう。お隣さんはこの春に引っ越してきたばかりで、夕飯を作りに来てもらうような仲ではありません。もしかしたら今朝の事件に引け目を感じているのかもしれません。


「今朝の事をお気になされているんですか?そこまでして頂いたらかえって悪いです」


「それもありますけど・・・私も夕飯まだなんです。一人で食事するのも淋しいですし、せっかく隣同士なんですから仲良くしたいじゃないですか」


「そうですね・・・そこまで言って頂いたのに断るのも悪いですし、お言葉に甘えるとします」


「はい!じゃあ準備してきますので、ちょっと待っててくださいね!」


「あ、僕も準備しますから戻ります。鍵は開けておきますから、気軽に入ってきてください」


そうしてそれぞれ自室に戻り、僕は急いで着替え部屋を片付けます。一人暮らしのカオス状態の我が家を短時間で片そうとしてもたかが知れているので、見た目だけでも良くなるように放置してあった空き缶やペットボトル、新聞やチラシなどの紙類等を適当にガンガンとゴミ袋にぶち込みます。幸いにも滅多に自炊しないのでキッチンはほとんど片付ける必要がありません。


「こんばんはー」


間もなく玄関の方からお隣さんの声がします。玄関には私服に着替えたお隣さんの彼女が手に食材の入ったスーパーの白い袋を持って立っていました。


「あ、どうぞお上がりください。汚い部屋で恐縮ですが」


彼女はくすっと笑うと、靴を脱いで僕の部屋に上がりました。キッチンの場所を尋ねると、早速料理を始めました。たまに調味料などの場所を聞かれる教える以外は基本的に僕がする事がなく、手持ち無沙汰になり普段は観ないようなテレビ番組を流してみたのですが、今まで女性が入った事のない自宅に女性がいて、しかも自分のために料理してくれていると思うと気もそぞろで内容など全く頭に入りませんでした。


しばらく待つとテーブルには彼女の作った手料理が並び、見た目も匂いもとても美味しそうです。メニューは『鰆の西京焼き』、『若竹煮(たけのこ)』、『だし巻き玉子』、『味噌汁』と旬の具材も使ったバラエティ豊かなものでした。到底僕には作れません。


「出来ました。どうぞ食べてみてください。お口に合えばいいんですけど・・・」


「いただきます」


とりあえず一口食べてみる。


「・・・美味い」


あまりの美味さに感動して言葉の断片しか出てこない。普段コンビニ弁当や牛丼チェーン店などの安い食事しかしていないせいもあるだろうけど、それを抜きにしても相当な美味さでした。これは一朝一夕で身につけられるような料理技術では無いでしょう。


「良かったあ。どんどん食べてくださいねっ」


彼女に言われるよりも早く、僕は既に箸を進めていました。これほどまでに食べるという行為に集中し、また喜びを感じることが出来たのはいつ以来でしょうか。目の前に人がいるのにも拘らずほとんど会話もせずに出された料理を全て平らげてしまいました。


「ご馳走様。いや、本当に美味しかったですよ。料理上手なんですね」


「お粗末さまです。・・・一生懸命練習しましたから」


ちょっと俯きながら、照れくさそうに彼女は言いました。


後編に続く




今日のボツネタ


前回の「白石涼子のシカイ良好ふんたららん」内の「DROPSを○○に例えると」のコーナーで、オチが金朋うりょっちになる事が多いと言うので、別の人をオチにしてみました。実際に送ったら没にされる確率100%!


という訳で、DROPSのメンバーをオンドゥル語で例えてみました。


神田朱未さん
オンドゥルルラギッタンディスカー!!
正統派っぽいから


白石涼子さん
ウゾダドンドコドーン!!
騙されやすそうだから


野中藍さん
ナズェミデルンディス!!
腹黒いから


金田朋子さん
オレァ クサムァヲ ムッコロス!
キャラが強烈で他の出演者を食うトークをするから


國府田マリ子さん
オッペケテン ムツキー!!
オヴァチャンだかなにをするきさまらー!